8月18日(日)
〜モリジンでカトちゃん危うく岸壁に、モリジン−ラシャショー(Ressachaux)−ニヨン(Nyon)のモリジンエリアベーシックコースのフライトでちょっと満足〜



昨日に引き続き天気は良さそうだ。残った2つの荷物がきたらすぐ受け取れるように今日はそのままモリジンで飛ぶことになった。Y沼さんはまた誰かの機体を借りて、ウメさんはタンデムだったかな、あんまりがつがつ飛ばない人のようなのだ。昨日のテイクオフは南向きだったが朝早いうちは東向きのところからになる。モリジンは複雑な地形のエリアだ。谷の三叉路の中心に位置し、バレーウインドがぶつかったり分かれたりするしちょっとした風向きでリッジのポイントが変わるし、面白いといえば面白いが、気が抜けない。



東テイクオフにはプロのタンデム屋さんや地元フライヤーもきていてすでに何機かフライト中だった。今日は機体も自前のだし、風は程よくアゲンスト。田村は今回の参加メンバーの中で準備だけは絶対負けないくらい早い。(そのことで明日は後悔することになる)ランディングは昨日降りているから何の不安もない。いそいそと出て行く。左手の東斜面に流していく。いつもの調子で山ぎりぎりで8の字していると、あるある、サーマル。ちょっとだけ上がったので調子こいてどんどん左に流す。と、木に覆われた斜面が終わるとそこは垂直の狭い岸壁の谷。すっごーい、痛そうな岸壁っ!下はガレバで見るからに怖そう。でも朝だから大丈夫、と思って近寄ったらいきなりキャノピーの動きが怪しい。テンション抜けそうなあのイヤーな感覚。この場所はちょっとやばいかも。サンデーフライヤーの取得は逃げ足の速さ。「岸壁怖いよー」と無線で叫んでテイクオフに戻す。するとテイクオフのすぐ手前が上がりそうな気配。こりゃ上げなおしてやり直すしかないと、回し始めると結構いい調子で上がった。やったね、初めてまともにつかんだ。





テイクオフからはカトチャン、シャチョーの機体が出てきた。早くあがってこないかなあと思ったけど二人ともテイクオフ横のサーマルはすり抜け岸壁へまっしぐら。田村はタンデム屋と同サーマルに入って回し続け、そのまま調子づいてモリジンの尾根をトップアウトし、尾根上の草地をさらに奥へとすすむ。岸壁も上からみるとあんまり怖くない。ただの垂直な山だ。しかし、そのころ岸壁前ではカトチャンが、岩直前でフロントからつぶれ危うく激突しそうになっていたのだと後から知った。それで相当高度をロスし、ラシャショー側の緊急ランにさえ届かず、谷底の牧草地に下りたという。かなりやばい状況だったらしくカトちゃんはその後ずっと『岸壁恐怖症』となり岸壁前を回しあぐねていた。

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メインランにみんながそろったところで、昼も食べずに2本目へ突入。(この頃から‘合宿’であることに気付き始める)2本目はラシャショーに突っ込む。この山は下のほうは日本の山みたいで夕方のリッジで楽勝だが、2200mのトップのほうはやっぱりヨーロッパ的で、30度−60度−90度の直角三角形みたいに見える。モリジンテイクオフからは距離にして4〜5キロくらいか。山自体は非常に近いがトップははるかかなたにみえてちょっと行ってみたいような気にさせる。でも60度の頂点あたりは尖った岩で怖そうだしやっぱり無理かな。と、思っていたのに、なんの拍子か行けてしまったのだった。



フライト前に宮田さんがエリアのポイントやトランジットのタイミングなどををいろいろ教えてくれたが、どうせ自分では走ったりしないし・・・とあまりマジに聞いていなかった。ラシャショーのお気楽リッジをY沼さんといい感じでふわふわしていてふと、ラシャショーの木がなくなるあたりまで上げたらニヨンに移動できるとか言ってたことを思い出し、『もしかしてそのくらいは行けるかな』とちょっと欲がでてきた。ここのリッジの感じは朝霧みたいで、今日はバレーも強くなくて気持ち的にも全然OK。誰も行ってないから無線で『このへんでニヨンに走りたいと思いまーす』と宣言したら、コース取りを教えてくれた。
この合宿の最大の利点はこういうところだ。初めてのエリアで前に誰もいなくても不安なく行ける。フリーで来てたらまずこんなことはしない。ちょっと嬉しくなって一人でどんどん行ってしまうニヨンに着いたらあまり上がらなかったけど、すっかり満足したので、ニヨンから直接ランディングに向かうことにする。


高度は有り余るほどあるからランディングのあるホテルの裏山経由で降りよう!と前へどんどん出して回り込んでいたら「田村さん、その山はあがらないからもう1回ラシャショーに戻ってあげなおして」と川地さんの無線。『別に上げなおしたくないんだけどなー、もう1時間以上飛んでるし気分的にも十分だしーー、でも川地さんにもう降りたいなんて言えない。きっと好意で言ってくれてるんだろうし・・・』と心のなかでぶつくさ言いながらも(いや声に出していたかも)素直にラシャショーに戻る。ニヨンに走り出した時の半分くらいしか高度がないから上げ直すの大変そう、と思っていたが意外といいリフトがあったので、右回しでくるるしてたら(田村は右回ししかできない)なんかさっきより上がりそうな予感。ラシャショーの直角三角60度頂点あたりにはシャチョーのタイタンがみえる。ずいぶん長くそのあたりを飛んでいたようだ。『追いついてみようかなー』とひたすら右回し。上のほうは木がなくてだんだん緊張度がましてくる。ちょっと風の感じも変わってきている。
1800mあたりから多分顔が真剣になっていたと思う。他の人はどうだかしらないが、田村はキンチョー度があがってくるととたんに呼吸が短くなってきて、自分の気持ち的なリスクの許容範囲がレッドメーターになるのがわかる。『そろそろだめかな、でももうちょっとでトップがとれそう』と、はあはあを息きらしながら回し続けて、どうにかトップアウト!やったー「シャチョー、やっと追いついたよー」

自分としては十分過ぎるくらい頑張った飛びだと思っていたのだが、このフライトはまだ序の口。この合宿はこの程度では終わらない。

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夕方、待ちに待ったロストバゲッジの残りの2個が届いた。ウメさんのとY沼さんのだ。Y沼さんがようやくマイグライダーで飛べるというので3本目につきあってテイクオフにあがる。夜8時まで飛べるとはいえ、は傾きさすがに渋い条件になっている。でもY沼さんはやっぱり嬉しそう。「これでやっとセラークにヨーロッパの空気を吸わせることができる、でも借り物の機体の飛びのほうがよかったりして・・・」とか冗談を言っていたら、見事にそのとおりになって、田村と二人絵に書いたようなぶっ飛びでラシャショーの緊急ランに降ろすはめになったのだ。強い西日が差すラシャショーの牧草地は広く下ろしやすいがバッタが多くて畳むのに気を使う。宮田さんがモリジンテイクオフから下りて拾ってくれるというので二人で道路まで出てグライダーに寄りかかって座り込んで待つ。


でも、とっくに来られるはずの時間を過ぎても宮田さんは現れない。健脚のY沼さんは、そんなに遠くもないので自分は歩いて帰るというが、3本も飛んで疲れ気味の田村はそのまま待つことにする。その頃、宮田さんは、絞ったグライダーを担いで道路を渡ろうとしたところを、自転車の子供に突っ込まれるとアクシデントに見舞われていた。(幸い機体は無事でした)

こんな知らない街の知らない通りの道端にお行儀悪く足を投げ出して、一人座っていてもパラを持っているとぜんぜん平気。親切なタンデム屋さんの車が「ランディングまで乗ってく?」と声をかけてくれるのも楽しい。今日はたくさん飛べたし、(最後はぶっ飛びだったけど)ラシャショーのトップも行けたし、ここのところ陥っている立ち上げスランプも平気みたいだし、なんと言ってもあまり怖くないし・・・と満足感に浸っていると宮田さん登場。「いやー、お待たせしちゃってすみません」って、宮田さんに謝ってもらうのは3回目だ。

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夜のメニューは、生ハム・サラミ類の前菜とメインは鴨(みんなは何の肉だろうと言ってがあれは鴨に違いない)の煮込みとインゲンのバターソテー。砂糖たっぷりのレモンパイは強烈な甘さとすっぱさが混在し、この合宿中唯一不評のデザートだった。全員の機体が無事そろったことを喜び、明日は合宿前半のメインイベント。モンブラン近くの氷河のテイクオフ・グランモンテに行くことになった。明日のフライトコースの予習解説講義の後就寝。(夕食後に立体地図を囲んで、今日のフライトの反省と明日のエリア予習講義は、この合宿の日課です。)


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