8月21日(水)
〜サモア(Samoens)で3時間のリッジ神経戦、田村6年ぶりトップラン、休憩モード後シャチョーに追いつく、モリジンでエディとタンデムスパイラル〜 
 
天候の崩れは一時的なもので、今日も晴れていた。今のところ毎日飛べていたので1日くらい飛べなくてもいいや、と思っていたが今日もどうみても飛べそうだった。遠出する気力がなかったのか、近場のサモアのエリアに行く。モリジンから南に直線で10数キロ。ちょっと上がれば飛んで帰って来られるという。
サモアエリアの南テイクオフ(標高約1700m)は周辺が全部草地になっていて、そこだけみれば伊豆あたりのエリアみたいだ。テイクオフは谷の北側にもあってそちらは少し低くてスクールにも使われているようだ。我々は、南テイクオフに向かったがここのテイクオフへは少々歩かなければならない。正規ランディングまでの高度さは約1000m。広くてフラットで整備されたランディングだ。(もっとも谷の下はどこでも降ろし放題、現にウメさん以外はみんな別のところに降りている)地形もモリジンみたいに複雑じゃなく、あまりプレッシャーを感じさせないエリアだ。車で急な山を登って道路際に止める。テイクオフは道路からは見えない。エディが「すぐですよ、すぐ。10分か15分」と歩くのが苦手な私を安心させようとするが、『絶対嘘だ、エディの15分は25分だな』と覚悟を決めてみんなより先に歩き出す。朝霧の車横付けフライヤーは、足尾で歩き慣れている他のメンバーより歩くのが格段に遅い。道は牧草地の農道で、わりと歩きやすい。緩やかな登り半分、水平半分といったところか。


少し歩いたところで「あの先がテイクオフ、近いでしょう」とエディが指さしたところは、なだらかな牧草地のはるか先の突端。『うっ!やっぱり遠い。』10分くらい歩いたところに農具小屋があったのでその日陰で休憩。牧草地だけに日陰がぜんぜんないのがつらい。道に大きな牛が放し飼いになっていておとなしく草を食んでいる。
「牛にグライダーのせてってもらいましょうか」とエディ。
「いいねえ、ついでに人もね」

エディとシャチョーと田村がテイクオフに着いた。前が開けていて感じのいいテイクオフだ。少し遅れて宮田さん、カトちゃん、ウメさん到着。

テイクオフの風は少し強めで、でもきれいにアゲンストで入っている。雲低は低い。ときおりテイクオフレベルまで下がる。出るのは急がなくて大丈夫そうだ。他にフライヤーはいないがハイキングの家族連れやグループが数組いる。

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

まず宮田さんが試しにちょっと出てみてトップランして様子をみる。ひょいっとライズアップして前傾すればそのまますっと出る。テイクオフ前の草地を何回か行ったりきたりして、ストッとおりては、また出てみる。宮田さんがやるといとも簡単そうでお手軽な感じにみえる。よさそうなのでウメさんからスタート。テイクオフから伸びる尾根上とテイクオフ近辺の狭い範囲だがいつまででもリッジが取れそうな様子だ。宮田さんはビデオかカメラで撮影のため寄ってくる。「お願い、あんまりよらないでっ!」向こうは腕に自身があるから平気かもしれないが、寄られたほうは結構怖い。コンディションは上がらず下がらずだが、お気楽というほどでもなくリッジ帯が狭いのと、リフト帯が動いたり、風が強かったり、ところどころ弱いシンクがあったりでそんなに気が抜けない。カトちゃんは結構下がってはまた上げなおし、を繰り返している。翼端も何度かつぶされていた。シャチョーは比較的一定の高度をキープ。だが、上がってもせいぜいテイクオフ+100m程度だ。最近、朝霧でも雲に好かれている田村は調子こいてあげていたら雲に突入してしまい15秒ほど真っ白になってしまった。やばい!GPSを見ながら翼端折りして脱出。あげたいのに雲が邪魔だし、テイクオフ前はリッジ帯が狭くて他に動きようがない。気を抜くと下がっておしまいになってしまう。つらいっ!



無線でウメさんがテイクオフしたと入ってくる。ということは川地さんもすぐ出るかな、と思って姿を探すが、どこにもみえないし無線もはいってこない。「川地さん、とれますか?上がりそう?」と聞いてみると「だめ、ぜんぜんない」とそっけないお答え。3人は相変わらず同じ空域を行ったり来たり。誰かが何かするまでこの膠着状態は続くだろう。


1時間もそんな飛びを続けて、宮田さんから「えー、もう少ししたらバレーが入ってくると思うんで、そしたら左の谷の奥でもあがります。もうしばらくがんばりましょう」と無線がはいる。いつの間にかカトちゃん、シャチョー、田村の3人で我慢くらべモード。

  ■

先に下りてしまったウメさんが、今度は川地さんと低い方のテイクオフから飛ぶことになった。低いほうのテイクオフは歩かなくていいらしいのだ。ウメさんを出したら川地さんも飛ぶという。「もうすぐ川地さんもテイクオフしてそっちに合流できると思うんで、そしたら動きましょう。それまでそのあたりで飛んでてください」と宮田さん。正直なところ川地さんのテイクオフがそんなにすぐとは思えないけど。じれている田村は無責任にシャチョーをあおってみる。「シャチョー、モリジン、後ろに見えるんじゃないですか、走りましょうよ」でもさすがにこの高さではシャチョーも動かない。

すでに2時間近くはたっている。疲れる。自分でも操作が荒っぽくなっているのが分かる。引き方が荒いし、体重移動が甘くなっている。『危ないな、降りようかな』迷っていると、それを見越したように宮田さんから無線「たぶんもう少し待てばよくなると思うんで、がんばれるんだったらそのまま待機しててください」待機!?それならテイクオフで待機してても同じだ!と思った田村は、なんと大胆にも5〜6年ぶり(しかも生まれて3回くらいしかトライしたことのない)トップランをしようと思いつく。テイクオフは大室山と同じようなものだし、風は安定して十分強い。一度降りても一人で出るのに苦労はしなさそう。しかも地元のフライヤーらしき人が2〜3人姿をみせ始めている。なにかあったら手を貸してくれるだろう。


思い立ったら動くのが早いのが田村の取り柄。山ぎりぎりに寄って、お尻すりそうな感じで3往復くらいして様子をみる。テイクオフ正面に来たところでちょうど行けそうになったので思い切ってトライ。ちょっとオシリついてしまったが、くるっと振り返ってグライダーを落とす。うん、まあまあかな、と6年ぶりのトップラン成功(?)に気をよくする。「田村、トップランしました。しばらくテイクオフで待機します」と無線を入れると宮田さんは「あ、やっぱり」だって。“やっぱり”ってどういう意味?その方がいいならはやくそう言えっつーの。



休憩モードにはいった田村をみて、シャチョーは空中から声をかける。
「いいなあ、俺もいい加減おりたいよ」しばらくしてさすがのシャチョーも、耐え切れなくなったのかトップランの気配。何度かテイクオフにアプローチしてくる。でもなかなかうまく入ってこれない。なんかこのままだと前向きで斜面に激突しそうな気がしたので、ちょっとおせっかいとは思ったが「シャチョー、入ってくる方向が違います。今ならテイクオフ左からです」と声をかける。シャチョーはその後数度トライしたが、ちょっと下がってしまったので無理と判断したのかトップランを諦めた。

カトちゃんとシャチョーのリッジ耐久戦はまだ続く。『よくもつよなあ』と眺めていると、地元フライヤーらしき人がフランス語交じりの英語で話しかけてくる。出ても大丈夫かどうか聞きたいらしい。この二人をみてればわかると思うんだけどなあ。なんとか状況を説明したらセットアップを始めた。アプコの中級機だった。案の定下手で、ライズアップに3回失敗し、吹っ飛ばされそうになって結局やめてしまった。風は昼に出たときよりも明らかに強い。バレーが入ってきたのかな。宮田さんからそろそろ移動してもOKの無線が入り、シャチョーとカトちゃんはトランジットを始めた。田村も急いでテイクオフ。ちょっと慌てていたので風下に流されながらのラフなテイクオフになってしまったがぎりぎりセーフ。(誰かに見られてなくてよかった)ここで置いてかれたら元も子もないと気持ちが逸るのでついオーバーコントロールになる。「田村さんはもう少し上げてから走りましょう」と宮田さんから牽制が入る。
     

                                       


シャチョーは先行して4〜5キロ先の低い尾根先に取り付いた。その尾根がもし上がれば2500mのトップまで行ける。カトちゃんも追いついたがちょっと取り付いた高さが低かったので苦労している様子。確かにバレーは少し入ってきたがそんなに上がるというような感じはない。ようやくテイクオフから70〜80mあげたので先行機が行ったルートを追いかける。移動途中の丁度中間くらいにぽこっとした小山があり、家が数件あっていかにもサーマルの出そうな感じで日があたっている。弱いが少し上がりそうなので、拾っていくことにする。貧乏性なので落ちてるサーマルはどんなものでも拾ってしまう習性があるのだ。それが吉とでることもあればそうでないこともある。幸いこの時は拾って正解!きっちり回せるくらいしっかりしたリフトだった。回しているとそこが実はポコ山でなく大きく落ち込んでいる絶壁の上であることがわかる。『おー、これは出るはずだ』とさらに回し続けてシャチョーが粘っているチョイ上くらいを狙って移動再開。結構、いい高さで取り付いたが、弱い。シャチョーがその尾根のさらに裏側を探し始めたのでついていくがこれまた渋い。カトちゃんはいつの間にかいなくなっていた。これ以上探しても決定打がでそうもなかったので、高度のあるうちに降りる場所を確認することにする。

                                            



カトちゃんが降ろしたと思われるあたりを通過し、あまった高度で谷の反対端にある川の上空まで遊びにでる。川ではラフティングのボートが楽しげだった。高さが十分だったのでメインランまで届くような気もしてちょっとアゲンストに向けてみたが、進みが悪くかったるいのでやめておく。カトちゃんの黄色いイプ3を目印に同じ牧草地にランディング。シャチョーはその後も少し粘っていたが(この人はホントに飽きるということを知らない)ほどなく同じ場所にランディング。3人で3時間近く(田村は休憩が20〜30分があったが)の粘っこい神経戦フライトが終わった。



こういう飛びはホント疲れる。宮田さんがピックアップにきてくれて、「この後どうします?まだモリジンに帰って飛べますけど」と言ってくれたが、誰にもその気はないようだ。田村が「疲れたから今日はもういい」というともったいないと思ったのかエディが「じゃタンデムで飛びますか?」って提案してくれたので一も二もなく飛びついた。「じゃあ、タンデムでスパイラルね」カトちゃんも「ボクもタンデムなら飛びたいな」という。「みなさん、相当お疲れのようで、あ、カトちゃんゴルゴ線でてるし」と宮田さん。(注:宮田さんによれば、ゴルゴ線とは劇画『ゴルゴ13』にでてくる目の隅の線のことを言うらしいです)




モリジンエリアに帰ってからのタンデムフライトは、ホントに楽しかった。テイクオフはちょっとフォロー気味で、ラシャショーにも渡れないぶっ飛びコンだったけど、人の運転(じゃなくて操縦か)で飛ぶのは、お気楽の極致。頭空っぽにしてただぶら下がって景色を楽しめる。
ランディング上空まできてそろそろかなーって思っていたら、始まりました、スパイラル。徐々に入っていくものかと思っていたらいきなり機体下向きで「ヒョエー!」↓↓↓
予想以上のGがかかる。『地面近すぎー!』戻したところでおつりがきかけて、翼端がちょっとパサッ。『勘弁してくれー!』でも笑いが止まらないのはなぜ?



降りた後もスパイラルの興奮で笑いの止まらない田村は(変な人みたいだ)ランディングに残り、他のメンバーはカトチャンのタンデムに付き合ってモリジンテイクオフに上がっていった。カトちゃんのときは少しリフトがあったらしくエディのタンデム機はラシャショーに取り付き小一時間もソアリングしていた。もちろん最後はスパイラル。このときカトチャンは自分の顔をビデオ撮影しており、スパイラルに入る前後の表情の変化がなかなか傑作で笑えた。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

今夜のメニュはサフランライスに豪華ミックスグリルで山盛りの肉3種。引き続き体調の思わしくない川地さんを除き、みんなで狩猟民族的ノリで食らいつく。





NEXT

INDEX