8月22日(木)
〜アネシー(Annecy)リベンジ、シャチョーは湖ほぼ1周、田村ほぼ半周コースに成功で大感動!2本目はカトちゃんと極楽フライトで湖横断〜
 
今日も天気はいいようなので、一昨日ぶっ飛んでしまったアネシーでリベンジフライト。アネシーへ行くにはちょっと早めの9時半に出発し、一昨日出た高いほうのテイクオフに向かう。

「ミラクル・アネシー、条件がよければ湖2周だってできる」と川地さんは言った。そんな大それたことは考えてもいなかったが、とにかく湖を横断したかった。前にスイスの湖で横断に失敗し、とんでもないところへ降りてしまい、それ以来、湖横断は田村の悲願となっていた。

まず様子見に、川地さんがでる。まだ渋そうなのでみんなは出る気なし。今日は晴れていてアネシーも綺麗だからとテイクオフ右先で記念撮影。バックにアネシーと飛んでる川地さんの機体を入れたショットがいいよねと「川地さん、写真撮るからここの後ろ飛んでてね。」とほとんど猪之頭のカメラマン状態でわがまま言い放題。


長時間飛べそうな気配なので、出る前にトイレに行こうとするが、ここのテイクオフにトイレはない。こんな有名エリアなのにトイレないのか?仕方ないので青空トイレとなる。この合宿,女性がいてもあんまりトイレの考慮はしてくれないので、外で済ませる覚悟は必要だ。

しばらくして川地さんから出てOKの無線がはいり、みんな出始める。上げることさえできれば、そのあとのコース取り、走り出しのタイミングは的確に指示がはいる。少し時間がかかったが、なんとか700〜800mゲインしてテイクオフ後ろの岸壁にばっちりつけた。その後のことは言われるままに必死で回したり走ったりしていてあまりよく覚えていないが、気付いたらジモピーもほとんど前山状態で飛んでいるなか、シャチョーと私の2機がエディにサポートされて一番大きな谷をトランジットしていた。『いつの間にこんなとこまできちゃったんだろ』プロに先導してもらうとこんなにも違うものなのかとつくづく感心。




次の岸壁はさらに怖そうな岸壁で山というより本当に壁だった。その真上で一度雲にまかれて、またまた真っ白になってしまった。岸壁からあまり高度がなかったので、いきなり高度さげたらまずいかなーと思ってしばらく我慢してたら通り過ぎて行った。先行する川地さんからはどこが荒れているとか、どこが上がるとかの情報がはいってくる。エディが比較的近くで一緒に飛んでくれてるから心強い。

でも、最後の岸壁のちょうど中間くらいのところで、ちょっと田村の腕では扱いきれないようなサーマル状態に突入した。『うっそー、これ荒れてるっていわない?』プラス5くらいの小さいのがいきなりくる。岸壁はちょうど尖った先端の痛そうなところで、気持ちが引けてくるし、『まずいな、まずいな、早くここ抜けないかな』と押さえ気味にしていたら、いきなり機体がヨー方向にフッとふられ左右にと動いた。『まじ、やばっ!』ピッキーンと身体が硬直するのがわかった。この数年こういう状況になったことがなかったから、いま後ろに回りでもしたらとっさの対処はまずできない。こんなところで落ちたら・・・会社には極秘で来てるしこの岸壁に激突したらただの山チンじゃすまない!悪い想像はどんどんふくらむ。『神様お願い!もう悪いことしないから、とにかく無事にこの空域を抜けさせて!』とお祈りモード。その様子を川地さんにしっかりみられていて「田村さん、熊のプーさんのぬいぐるみじゃないんだから、固まってないでちゃんと回してくださーい」(おいおい、もっと他に言いようがあるだろう)「だめーっ、こんなのは手におえませーん」「逆だよ、まわさないから怖いんだよ」そうかもしれない。でもできないものは出来ないのっ!硬直したままなんとか無事その空域を脱出。



大体、海外フライトでは安全マージンをいつもの200%くらいにするのが私の方針なのだ。けれど今回は気持ちのテンション高いし、降ろしたい時に止める人はいるしで、その基準をかなりオーバーしている。ほんとだったらこの時点で、いつものように臆病風一発病で降りを決めこむところだ。でもなんとか気持ち落ちつかせ、持ちこたえようとする。『静まれ!心臓。』普段なら絶対ここまで頑張らない。

ちょっと引き離されてしまったが、まだ先へすすむ。湖 最北端の岸壁まできた。



この合宿で一番幸せだった瞬間を切り取った1枚の写真がある。この時の写真だ。場所はテイクオフから10数キロ先の1500〜600mの岸壁の上空。前方には午後のアネシーの街が見え、先行する川地さんの白いブーメランが小さく白く光る。左手の足元はるか下には、さざ波立つ緑のレイク・アネシー。すぐ右手上にはつきっ切りでサポートしてくれているエディのオメガ。そして頭上にはこの半年間で私を前山フライヤーから卒業させてくれた愛しのミストラル2。写真の視点の中心は私だ。

もちろんこんな写真は現実には存在しない。どんな広角レンズでも捉えきれない。これは私の記憶のなかだけにあるワンショット。でも実際に撮られたどんな写真よりも鮮やかに再現できる。こんなに贅沢で幸せなことってあるだろうか。いままで雲の上の人って思っていたパイロットを追って、すぐそばで細やかにサポートしてくれる人がいて、ずっと来たかったアネシーで、自分では絶対向かうはずもない場所を飛んでいる。この一瞬を実現してくれた多くの好意と風とそして幸運に、深く深く感謝する。


この後、川地さんに付いてアネシータウンの上空まで行った。たぶん川地さん一人なら楽勝で湖の西側に取りつき1周できたところを、私がついてこれないとみて引き返してくれた。帰りは想像以上にスムーズでフォローを背負って、一度も怖い思いをすることもなく、余裕の高度でメインラン上空まで戻れた。エディはそれを見届けるとシャチョーのサポートにまわり、湖を横断して西半周コースに行った。


幸せだった。ランディングしてざくっと絞ったキャノピーの上に仰向けに寝転がると、あんまり嬉しくってホットして涙がでた。
慣れない長時間フライトに脱力し、ランディングで呆けているとカトちゃんも降りてきた。二人でランディングの風景を楽しんでいると、トンでもない奴がいた。アプローチの段階から、下手を越してなんかヘンな奴と注視していた中級機が高度10mくらいのところでいきなり妙なブレイク操作をはじめて、おまけに片手を離したりしてグライダーを怪しく揺らした。と、高度1〜2mのところでスポッとハーネスが離れ、パイロットが飛び降りたというか、転がり落ちた!「なに、今の?」「わざとじゃないですか、途中でハーネスはずしてましたもん」とカトちゃん。なんでそんなことしなくちゃいけないわけ?(しかもたいした腕でもないのに)後でその話し宮田さんたちにしたら有名選手がやっている技らしいのだ。彼はお笑い芸人パイロットとしての道をすすむのだろうか・・・



川地さんがトップランして(ここのテイクオフでトップラン!!)車を下ろしてくれたのでカトちゃんと2本目を飛ぶことにする。いつもなら2時間半も飛べばもう十分、とやめておくところだが幸せ気分でテンション高くて飛びたい気持ちがおさまらない。今度は湖東の中ほどにあるメインのテイクオフからだ。ここは車横付けなのですぐにテイクオフ。(リゾートパラはこうでなくちゃ。)



風はすでに夕方の穏やかな感じで、ガツンとしたところはない。けれど、まだ後ろの岸壁に張り付くだけの余地はある。この時は自分でも不思議なくらい思い切ってどんどん壁に寄れて、大胆に回せて、自力で岸壁トップアウト。それをみていたエディが「じゃ、田村さん今度は湖 横断行きますよ」と声をかけてくれた。そういえばさっきのフライトでは山の移動優先で湖上には出なかった。『湖、渡りたーい』という田村の希望をエディはちゃんと覚えていてくれた。エディのコース指示でランディング上空を通過し、湖の巾の一番狭いところを渡る。対岸には小さなシャトー。

高度は十分余裕があるので適当に走らせているとエディから「もう少し左、行き過ぎです、修正して」と細かいコース指示が飛ぶ。ランディングでみていた川地さんには「かなりジグザグに飛んでいた」と後から指摘されてしまった。自分では想定コースをまっすぐ飛んでいるつもりだったけど、なかなか難しいものですね。向こうに渡りっぱなしでもいいかな、と思っていたがエディが引き返すというので、余裕のあるうちに反転。エディの指示のおかげで、帰ってきてもテイクオフよりまだ高いくらいだ。

もう1回上げて、今度はひとりで横断しようかな、といつもなら絶対望まないことを考える。エディは今度はカトチャンを湖横断に連れ出した。カトちゃんももちろん横断成功。その間田村は3回後ろをせめて上げきれなくて、でも夕方の穏やかなアーベントフライトを楽しんでいた。日が傾く。「うしろのサーマルは今日はもう終わりでーす。こうなるといかなる機体でも上げるのは無理です。」という川地さんの無線でようやく降りる気になった。



シャチョーは湖をほぼ1周してくるし、田村は半周近くまで頑張ったし、カトちゃんも長時間粘っていい高度を稼いで湖渡ったし、ウメさんは宮田さんとタンデムでアネシータウン上空まで行けた(タンデムでXCも楽しそうだ。)満足度120%で合宿後半の山場となった1日だった。

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モリジンに帰り着いたときは9時ごろだったか、とにかくもう暗くて相当遅かった。好フライトで盛り上がっていたのと、みんなおなかがすいていたので、すごい勢いで夕食に向かった。オニオンとハム入りのトマトメインのサラダが大好評。もう一皿くれとかなんとかエディがいっていた。あっさり野菜が疲れた身体に嬉しい。ケンタッキーみたいなチキンとミートソースのパスタも美味しかったし、ホントは苦手なミントのアイスとチョコケーキまで食べまくった。


部屋に帰ってシャワーを浴びるとベランダの戸締りも忘れて寝てしまった。


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