8月23日(金)
〜小雨、曇りでアボリア(Avoriaz)・クルズ(Cluses)とエリア探しに迷走、パシー(Passy)でカトちゃん岸壁恐怖症を克服しイチ上げ、地元フライヤーを尻目に2700mで合流、世界の川地3000mで待たせて凍らせる〜

朝から雨だった。昨日の大満足フライトで合宿終了の気がしていたのであまり残念ではなくむしろホットしたような気分。でも、だからといって今日何するんだろう。このメンバーでお買い物?ちょっとマシなレストラン?観光? あまり想像がつかない。絶対盛り上がらないに決まっている。

いつものメニュの朝食をとって、一応集合時間に集まるがみんなもなんだかポケーッとした表情だ。天候回復の可能性があるので12時に再集合ってことで、それぞれ時間をつぶす。


田村は、部屋で休養。この合宿用に購入した小型低周波マッサージ器をかけながらベッドでごろごろする。今日までこのハードな1週間、よく体調がもったものだ。
ここ半年ほど自律神経失調症気味で不眠と頭痛と微熱と肩こり・腰痛とあらゆるストレス性の不調を抱え、薬を山ほど携えて、それでこんな合宿に参加するとは我ながら狂気の沙汰だ。一人部屋だったのは幸いだった。同室者がいたら、あまりの薬漬けに、こいつ大丈夫か?ときっと不安になっただろう。(ちなみに睡眠導入剤は飛行機での強制睡眠で時差ぼけ防止に絶大な威力を発揮、病気でない人にもお薦めの海外ツアー裏技です)そんな感慨にふけっているとそのままいつまでも寝てしまいそうだったので、集合までちょっと買い物にでる。
                     
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昼ごろ、雨はあがり曇り空。モリジンテイクオフのはるか上に見える標高差800mのアボリアテイクオフからぶっ飛ぶことにする。エディは観光でヤギでも見に行こうか、といってくれたがやはりこのメンバーは飛び以外にはあまり興味がないようだ。
アボリアで車をおりると風はフォロー。ちょっと出たくない雰囲気なので、あっさり諦めて下山する。


天候は少しづつではあるが、回復に向かっている。近場のクルズが飛べるんじゃないかというので、だめ元で行ってみる。このエリアも車で上がる。このあたりのエリアはスイスと違い、車であがるところが多い。クルズも鉄塔のある山頂まで車横付けのエリアだ。テイクオフは斜度も広さも悪くない。風はかなり強く、左サイドで入っている。予報ではこの風はやがておさまるらしいので、いったんここで待ちにはいることにするが、川地さんが「このぶんじゃ夕方まで待つようになるよ、パシー行こう」とすすめ、みんなは飛べればどこでもいいや、って感じなので、結局パシーへ移動することになった。宮田さんからすればY沼さんの件があるから、パシーは避けたいんじゃないかな、と思うがパシーもなかなか悪くなさそうなエリア。

パシーへもテイクオフへは車でいける。テイクオフというより山の中段にちょっとした街(というほどでもないが)になっていて、その中段の最端をテイクオフとして囲ってある感じのところだ。リフト降り場にもなっておりトイレ完備で駐車場もすぐ横で、ランディングも広いし申し分なし。


川地さんが一番に出る。あまり気合の入っていない田村がぐずぐずしていると「早目に出たほうがいいよ、置いてくよ」と脅すので準備する。すでに多くの機体がソアリング中だ。移動して正解だった。みんなでほぼ同じ時間にでた。コンディションは降りないがなかなか上げきれないといったじれったい感じ。
上がるところが次々変わってステイしきれない機体もいて明暗くっきり。そのなかで今日はカトちゃんのイプ3が好調に上げだした。川地さんはとっくに抜けてはるか上の岸壁だ。シャチョーと田村は何度かはずしてテイクオフからかなりさがった。『まずい、このままではぶっ飛んでしまう。深追いしてると届かなくなりそう、でも最終日にこれじゃ浮かばれない』と意地になって粘る。でもなかなかつかみきれない。自分でも今日はなんか違うなー、なんか下手だなーと思うがどこがいけないのかかよくわからない。おまけに集中力に欠けるというのか、やっと拾ったサーマルをすぐに外すしで散々だ。

シャチョーもいつの間にか姿が見えない。「シャチョー、どこですか。降りちゃいましたか?」宮田さんからも無線がはいるが返事なし。確か無線忘れてもってないとか言ってたな。たぶんあの高度じゃ降っただろう。シャチョーも気抜けしてたのかな。

田村の機体はいまひとつ調子にのらない。どうにかサーマルをつかんだが同じサーマルを回していた知らないエレクトロンにぶち抜かれる。「田村さん、旋回半径が大きすぎます。その半分くらいで回さないとあがりません」とはるか上の川地さんから無線が飛ぶ。よくみてるなあ、チックショーと躍起になって回す。パシーのテイクオフは1400〜500、うしろの岸壁のトップは真後ろが約2600で一番西の高い岩が2700くらいだ。ようやく第一段階をぬけ岸壁前の2000m強まであげ返した。相当時間がかかったし、かなりシンドイ飛びだった。よく諦めず粘ったと自分で自分をほめてあげたい気がした。カトちゃんにもようやく追いつきそう。でもその上の川地さんにはまだ時間がかかるな。


岸壁前で上げあぐねていると、下からいい上げ調子で追いついてくるGINの機体がいた。『やけに巧いなこいつ、抜かれそう』とむっとしてたら「宮田です。今田村さんに追いつきますんで、川地さんのところまでサポートして送っていきます。そしたらあとは川地さんにお任せして、自分はテイクオフでウメさんのサポートに戻ります。」と無線がはいった。『あ、じゃあこれ宮田さんなんだ。(どおりで上手いはずだ)私が上げきれないんでわざわざきてくれたんだな』ってすっごく感激してしまった。で、もう2時間近く飛んでいるにもかかわらず、気力回復。宮田さんの指示にとにかく付いていく。宮田さんはビデオを回していた。前に「同サーマルで同じ高度で対角線上にうまく入って撮影できれば、周りの景色だけがぐるぐる回って格好いい画が撮れるですよ」と言ってたことを思い出し、狙って対角線に入ってみる。いくら宮田さんでもブーメランで岸壁近くをカメラ構えて、しかもこんなシロートと回すのは怖くないのかな。


宮田さんのアシストのおかげで2700mの岸壁をトップアウト。でも川地さんはまだその先300〜400m上だ。川地さんはさっきからずーっと3000m近辺でわれわれを待っていてくれたのだが、想像以上に寒かったらしく、「えー、みなさんあげられそうですかー、そろそろ寒くて手が限界なので走りたいんですが」と置いてくぞコール。「えーっ!あと10分待ってて、上がりそうな気ぃするから」と田村大胆にも自分のへぼを省みず引きとどめる。(おかげであとから川地さんに「俺は田村さんに凍えさせられそうになった」などと吹聴された)すでに夕方でサーマルは収束に向かっている。岸壁際をぎりぎり回すとなんとか上がるがそれでもあと300mはきつい。7-8分たってこれはもう間に合わないと思い「川地さん、ごめんなさい!上げ切れないので行ってください」と田村は脱落宣言をする。あっというまに川地さんは後方へ去ってしまった。モリジンまでに道のりは直線で25〜30キロ。サモア経由になるのかな。すでに条件は渋くなってきている。走り出す川地さんに「ちゃんとモリジンまで帰ってくださいよ」と宮田さんが念押ししていた。

カトちゃんとしばらく岸壁トップ2700m近辺を飛んでいた。カトちゃんはすっかり『岸壁恐怖症』を克服したらしい。今日はやられっぱなしだったが、最後に追いつけて良かった。それにしても、2人ともこんな怖そうな場所によく平気でいられるようになったよね。宮田さんがテイクオフ方向へ戻るので、田村もついていく。といってもスタート地点が田村のほうが数百mほど高かったのでうえから追いかけるかたちになる。宮田さんのブーメランを上からみるのはなかなか不思議な感じがした。

テイクオフから西最端までは5キロ程度。少し前のほうを回ってフォローを背負って帰るとテイクオフ前は、夕方のアーベントで極楽状態。ちょっと高度があるのでテイクオフの先の沼まで行ってみる。少しはまりそうなところだったのでテイクオフ見張り番中のエディに「あそこの沼まで行っても大丈夫?」と聞いてみると「ぜんぜん問題ないです。シャチョーもその後ろで張り付いてますよ」1本目を外したシャチョーが2本目にトライ中だ。この渋いなかで後ろの岸壁を果敢に攻めている。シャチョーと一緒にもう1回上げなおそうかと少しだけ絡んでみたが、シャチョーほど攻撃的に突っ込んでいけるはずもなく、気力もないので、ランディングへ向かう。

6時のランディングには大勢のフライヤーが降りていて、同時進入を避けながら慎重に降ろしにかかる。ランディング直前の林でリッジがとれて、ちゃんと降ろす気にならないとなかなか降りられない。最後のフライトの余韻を楽しみながらゆっくりのんびり降ろす。テイクオフから3時間近くたっていた。



Y沼さんの病院に立ち寄って、モリジンへ帰る。Y沼さんの症状はそれほど悪くないらしくエアの手配ができ次第帰国となるそうだ。車中で待つ間、今日一番の飛びをしたカトちゃんと話しが盛り上がる。病院をでてすぐの道路から、カトちゃんと田村が最後に制覇した2700mの岸壁のトップがよく見える。

下からみるとこれまたすごい岩山だ。よくあんなところで飛べたよね!自分があの辺をうろうろしていたなんて信じられない!カトちゃんがその場所をバックに写真を撮りたいというので車を止めて、2人で上を指差し『あの岸壁制覇!』のポーズ。


で、おまけの1本。これだけ飛んでおいてまだ飛ぶ?って言いながら、最後のモリジンフライト。もう少しここのエリアを飛びたかったな。モリジンの谷の景色を確かめるようにのんびりフライト。ランディングちょっと手前で高度があまったので、おとといのエディのタンデムスパイラルに触発されちょっと自分でもトライ。でも入りかけると怖いので1周くらいで戻してしまう。これは帰ってからゆっくり練習しよう。
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今夜が最後になるHotel“L”AUBERGADEのディナーは、ちょっと豪華に前菜3品。昨日みんなに好評だったトマトメインのサラダはモッツァレラチーズ入り。イカとオリーブのビネガー和えとインゲンのベーコンいためと野菜たっぷり。インゲンには醤油がちょっと隠し味につかわれていた。川地さんたちが借りていたアパートを引き上げるというので残った食材をシェフに譲っていったのだ。川地さんは結構料理をする人らしくシェフに自作の和風パスタを味見してもらったり、食材の使い方を話したりしていた。なんだか意外だ。そしてメインはプルーンが真ん中にはいったビーフのかたまりがたっぷり。丸上げポテトとバター煮ポテトもお皿に山盛り。仕上げは、甘さこってりのチョコレートムース。


最後の最後までほんとによく飛びまくった!もう1年分くらい飛んだ気がする。今日は、夕食後の解説講義はなし。
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