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813日(月) ボーイング社工場見学と今日も上がらない山、ブライス・デボス氏とのフライト。思いのほかアタリだった近所のシーフードレストラン

朝起きるとあたりは真っ白で、Everettの街はどこもかしこもガスの中だった。天気予報では午前曇り、午後は晴れとなっていたがあまりに深いガスに落胆する。昨日までの晴天が嘘のよう。
「誰がこのガス運んで来たんだ!」
とヒ○シを責める。今日は午前中ボーイング社の工場見学に行くことになっている。プロエンジニア・なべちゃんの解説付だ。なべちゃんの職場でもあるわけだが、建物が違うし、なんといっても敷地面積がとんでもなく広く、オフィス棟とはかなり離れているそうなので、なべちゃんも行ったことはないらしい。

 

ガスの中、Everett10分ほど走り、ボーイング社専用飛行場を横目に未ながら工場に到着。普段は9時・10時と一時間おきにやっているツアーは、夏休みのせいか30分おきに行われていて、アメリカ人だけでなく、チャイニーズ系の人たちも多く、見学ツアーの受付はとてもにぎわっていた。子連れファミリーばかりでなく年配者も多い。なんと工場見学者用のみやげ物屋まで完備され、そのgoodsの種類は下手な日本のスキー場をはるかに超える。

 

受付近辺はボーイング社史の展示や飛行機のコックピットの実物があってそれもまた面白い。なべちゃんの解説があるのでたいしたことのない展示もとても興味深くみられる。930分の定刻になると入り口が開き、中に入るとそこは半円形の劇場のようなところだった。ディズニーランドのアトラクション同様、前フリがあるらしい。陽気なおばさんの解説に続いて10数分のフィルムが上映される。英語のフィルムじゃちょっとつらいなあと思っていたが、このフィルムに台詞はまったくない。音楽と効果音だけで飛行機の製造過程をとんでもない早回しで次々みせていく。小さな部品が胴体とか翼になり、分割されていた輪っかの胴体がつながれ、主翼が取り付けられ、内装が施され、だんだん飛行機の形になっていく。そのあいまに、ボーイングを支えてきた有名無名の技術者達のセピア画像が誇らしげに挟まれていく。タイタニック風なBGMは叙情的で美しく懐かしく、無機的な飛行機組立シーンに「ボーイングの人々」へのシンパシーまで誘発させる。実によく出来たフィルムだ。!正直言って、とても感動した。ラストシーンで、歴史と技術と人々の思いをのせて、テイクオフする最新旅客機をみて「モノを作るっていいなあ、今から 技術者になろうかなあ」と思ったくらいだ。

感動の気持ちをもったまま観客はバスで工場へ向かう。ストレートに工場にきたら素通りしてしうかも知れない工業的な場所だが、今ならとても肯定的な気分で見ることができる。この計算もみごとだ。

工場はたぶん世界で一番大きな建物だ。なんと飛行機が縦に4-5機は並ぶ大きさなのだ。まずその大きさに驚く。工場の全体図をみるとまるで組み立て前で枠につながれたプラモのキットみたいだ。尾翼の部屋・胴体の部屋・飛行機の頭の部屋・・・。

 

飛行機の外壁が僅か1.2ミリだとか(車と変わんないよこれじゃ)、カーゴにはトイレが1コしかないとか、飛行機は輪切りの形で組み立ててあとからドッキングさせるとか、初めて知ることがいっぱいで小学生気分になって楽しめる。正規の工場見学が終わったあと、ナベちゃんが工場の廃棄物置き場に連れていってくれた。廃棄物といっても飛行機部品とかその組立機材だから大きいし、中には飛行機そのまんまで置いてあるのもある。飛行機の最後なんて考えたこともなかったが、飛行機本体のおもな廃物場はどこかの砂漠にあるという。砂漠のなかの飛行機墓場・・・。なんか怪獣墓場みたいだ。

 

一度ナベちゃんの家を帰り一休みする。外はまだまだガスで雲底はすぐそこだ。天気が悪いと気分ももりあがらない。N子さんにお茶をいれてもらったり、シアトルの日本語パンフを眺めたり、リビングでごろごろ寡黙にすごす。昼になった。このままここでごろごろしていては、きっとN子さんが気を使って昼ご飯まで作ると言い出すに違いない。我々は、近所のファーストフードに行くからナベちゃんと2人でお昼にすれば、と提案するが、腹がこなれていなくて眠いMヤンは、「オレ、昼いらない、ここで寝てる」という。ほんと、男って気が利かない、リビングで客がごろごろしてたら、N子さんがなべちゃんの分だけ昼ご飯作るってわけにいかなくなるでしょ!寝ぼけたMヤンに、寝るならをこっちで寝てなよ、と寝室に閉じこめる。

 

タコタイムでご飯を食べていたらだいぶ空が明るくなってきた。まだまだ曇りだがこれならいけるかも、と期待する。

 

帰るとMヤンはずっと部屋で寝ていたらしいくまだ寝ぼけている。玄関脇ではとんでもない騒音をまき散らし乾燥機が回っている。(アメリカの電気製品がうるさいというのは本当だ。いや、想像を越えてうるさい。)実は、N子さんが我々の洗濯をしてくれていたのだ。夕べはそんなに遅く帰るつもりはなかったので、洗濯する予定だったのが野球の試合時間の変更で洗濯時間がなくなってしまい、N子さんの一緒にやっておきますよ、のお言葉に甘えてしまったのだ。初対面の人に洗濯までさせてしまうとは本当に申し訳ない。おまけにいつのまにか畳んでまでいただいて・・・ありがたいやら、恥ずかしいやら。でも、ここで洗濯しなかったらこの後とっても困る。助かりました、N子さん。

 

今日は2時にブライス・デボス氏とランディングで会うことになっている。今年の春にスカイ朝霧に来たという退役軍人のフライヤーだ。メールで連絡したら歓迎のレスをくれたので電話したのだ。展開次第では自宅ご招待もありか?なべちゃん家にお世話になるのは今日までだし、(なべちゃんは火曜から仕事なのだ)庭付き一戸建てでバーベキューとかしたいぞ、などと悪巧み的妄想を膨らませる。

田村「どこか近くで安い宿知りませんか?友達の家にいられるのは明日までなんです」
ヒ○シ「僕たちあんまりお金ないんです」  (このセリフにはヒ○シしかない)
ブ氏「それなら私の家に来ないか」
田村「いいんですか?」

ブ氏「いいとも、きっとワイフも歓迎するよ」
一同「わーい、ありがとう!ミスター」

てな展開が理想的なんだけど・・・(以上田村の計画シナリオでした)

 

ヒ○シ初フライトなので、なべちゃん・Mヤン・ご近所のAの4人は先にテイクオフに上がる。私はランディングで勝手な妄想を描きながら一人ブライス・デボス氏を待つことにする。天気は午前中のガスがうそのように回復し、どこまでも青い空が広がる。

2時を少しまわり、痩せ型の初老の男性がきた。エリアのスタッフに
Japaneseと会うことになっているが来ているか?」
と聞いている。彼だ。退役軍人と聞いていたの
でどんな強面の人かと思ったが、穏やかでもの静かな感じの人だ。
「中村さんと大串
さんがよろしくって言ってました」
というと、
「彼らのことはよく覚えている。」とにっこ
り。

一緒にテイクオフにあがることにする。ショートカットコースで行ったら、グルーーっト遠回りコースであがった4人に追いつき結局同じバスで上ることになった。

 

バスといってもピックアップトラックの荷台に立ち乗りだ。グライダーはその後ろに連結した台車で引っ張る。荷台に大勢のフライヤーと揺られていると突然前の助手席から水が降ってきた。なんと校長のマークが水鉄砲でうしろのフライヤーを狙っているのだ。アメリカ人っていい大人になっても、しかも相手が知らない外国人でもかまわずこういうことするのね。

 

マーク校長は、窓から派手に水攻撃をしかける。陽気なアメリカ人達は笑っている。と、突然ヒ○シは手にしていたミネラルウオーターのペットボトルのキャップをあけ、荷台から身を乗り出して前の運転席の窓にむかって水をバシャ!あまりのリアクションの早さに一瞬「エッ?」。普段ボーっとしているのに、ヒ○シやるなあ、インターナショナルな生活のおかげか、それとも単にキレタ奴なのか。しかし、Japaneseの反撃に黙っているような校長ではない。さらに激しい攻撃で、結局犠牲になったのは、善良な他のアメリカ人と彼らのグライダーだった。校長はその後も水鉄砲で遊びまくり、山道をふさいでいるユンボに向かって、悪の軍団に立ち向かうアクション映画のヒーローのように水鉄砲攻撃をしかけ、ついにユンボをUターンさせた。

 

テイクオフは、ちょっと強めの風。今日もクレイジー・バンディットはいかれた飛びをみせている。風が強い割にはやはりあがらない。3人に続いて私もでる。ブライス・デボス氏はとっくに出ていて粘り強く飛んでいる。このエリアにはヒ○シとおなじオクターンが多い。オクターン軍団に囲まれてあまり代わり映えのしないフライトになった。

 

ランディングでぶらぶらしているとブライス・デボス氏が、手まねきした。「このザック便利だよ、ちょっとみててごらん」
そういう彼のザックは、通常のパラザックと
は全く違い、絞ったパラをそのまま円形に絞り込むようなもので、キャノピーのたたみ不要という究極のコンビニエンスザックなのだった。
「そしてこれが重要なところ
だ」
といいながら彼は絞ったパラのライザーだけを同じく絞った円形ザックの真ん中
からだしてそれを超特大安全ピンのような金具で止めた。要するにこれでライざーもねじれず、ラインもくぐらず、パラをそのまま出せばラインチェックOK状態になるのだ。確かにこれは便利。ただし朝霧のような歩かないエリアに限ればだけど。

 

ブライス・デボス氏と世間話を続けて、いよいよ田村の悪巧み的会話にもっていこうかと思ったが、話のなかで彼の家は相当遠くにあることが分かった。
「もうそろそろ
いかなくては。家はここから2時間以上もかかるし、渋滞がひどいんだ」
と彼は言った。うー
ーん。これではたとえ彼が家に招待してくれてもちょっといけない。田村の悪巧みは不発に終わった。

 

「今日は楽しかった。今度は秋に来るといい。家の近くに海沿いのリッジエリアがある。この季節は強風で飛べないが秋なら飛べる。またメールするよ」
そう言って彼は
帰って行った。来年はオーストリアにフライトしに行くのだと言う。また日本にも来てね。

 

我々も家路につく。昨日、超高級シーフードの夕べが流れてしまったので、今日は少しだけ高級なシーフードを食べに行くことになっている。なべちゃん家から徒歩5分の湖畔にありナベちゃんもN子さんもお気に入りの店だという。平日の夜遅い時間でしかもこんな田舎の店なのに店内は賑わっている。ちょっと高め、といっても一人3000円?5000円くらいなのだが卓上にはにキャンドルの光できらめくカトラリーが並び、生花が飾られている。ウエイターもウイットに好感がもてる。メンツがメンツだけにロマンティックとはほど遠いがいい店だ。ボリュームたっぷりのシーフードのサラダとおいしいガーリックトーストでみんなメインディッシュにはいる前から飛ばし気味だ。メインは、銘々好きなものをオーダー。サーモンのロースト・シーフードパスタ・カニラザニアなどなど。どれも外れなし。すっかり満足してなべちゃんとの最後の夕食が終わる。

 

ナベちゃんの出勤時間は早い。朝7時前には家をでるという。明日の朝、なべちゃんが出る時間に会えるだろうか?きっとなべちゃんのことだから、寝ている我々をわざわざ起したりしないだろう。明日の朝はちゃんと早起きしてお別れとお礼を言わなくちゃ、と思いつつほろ酔い加減で床につく。



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