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 6月29日(水)ノイシュティフトのぶっとびフライト&鈴木さんのカメラ墜落事故,そして恐怖のスイトンディナー 


この日はなんとなく朝からどんよりした天気だった。風はないが、雲底が低くあまりよさそうではない。いつもの朝食をとって、(そろそろ飽きてきたぞ)朝のお散歩にでかける。まずは、ホテルの2軒先の銀行に両替に。銀行といっても、田舎町の郵便局くらいのこじんまりとしたものでひっそりとしている。日本をでてから毎日円高がすすみ、お蔭で両替に行く度にもらえるシリングが増えているので嬉しくなる。だから、盗難の心配はないが、滞在中は割とこまめに一万円づつ両替した。


今朝は曇りでフライトに出発するのが遅めだから、少し村でお買物をすることにした。だいたいどのお店も朝の8時からやっており、夕方4時か5時には見事に全部閉まってしまう。だからお買物タイムは必然的に朝いちになる。本屋さんへいってスチューバイの地図と、おみやげ用に小さな熊の絵本を何冊か買った。村松さんは、さんざん迷ったあげくすごく素敵な銅製の天使のキャンドル台を選んだ。


帰る途中、本屋さんの横の階段をおりたところに、なぜか体重計(昔よく銭湯にあったようなやつ)がぽつんと置かれているのを発見した。「これってただの体重計だよね?」「ゲーム機じゃないよね」よくみると横にコインを入れるところがついている。有料の体重計なのだ。そういえば旅にでてから、カロリーの高いものばかり山ほど食べている。きっと太っただろうな、とちょっぴり気になる、同行していた、辻さんと村松さんを「見ちゃだめ」と追い払い2シリング入れて台に乗る。むむっ、やはり増えてる。少し食べるのをひかえなくっちゃ。


朝からブルーな気持ちになってしまったが、今日のフライトエリアであるノイシュティフトに着いた頃には、そんなことはすっかり忘れてしまっていた。ノイシュティフトは、フルプメスの村からよく見えるところにあり、隣村の御近所エリアという感じだ。車で10分もかからずに、リフトのりばに到着。ここでは、スクールの講習をやっているらしく、ぶっとびコンディションであるにもかかわらず、結構な数のフライヤーがいた。テイクオフはリフトから降りてすぐの斜面の牧場で、リフトの駅から100mくらい登ってもいいし、歩くのがいやな場合は直ぐ横でもOK。富士見パノラマのテイクオフまでのゲレンデ全部がテイクオフといった感じで、斜度もそこそこでなかなかよいテイクオフである。高度差は800mほどで、リフト乗り場のすぐ脇のフラットな草地がランディングになっている。ランディング横は川だ。流れが急で水量が多そうだが、川幅が小さいしランディングは広いのでほとんど気にならない。テイクオフとランディングの距離は近いし、山は日本の山と同じように全面に木が生えていて、ほとんどプレッシャーがない。おまけにテイクオフからずっと尾根上を飛ぶことになるのでぶっとびだと対地高度があまり出ず、そのへんも日本の山と似ている。ヨーロッパフライトはこういう所からからはじめて欲しかったな、と思うがいかんせん気象条件がすべてのスポーツなのでしかたがない。


風はアゲンストだが、いわゆるぶっとびコンというやつである。それでも、下の方はバレーウインドが強めらしい。中台さんの指示で、一本目はバレーウインドの中でショートしないランディングの練習を行う。昨日のド緊張のフライトが嘘みたいにおだやかなフライトである。曇りがちだが牧草地のに点在する村がきれいで、こういうボーっとした飛びもいいなと思う。こんな条件なのでみんな好きに飛んでいて、本数勝負にでた菊池さんは、午前中だけで3本も飛んだと言う。私も2本飛んで、3本目を飛ぼうと山頂に上がったころ、なんだか雲行きが怪しくなってきた。あっ、雨だ。ぱらぱらという感じで本降りにはなりそうもないので、山頂にいた私たち5人はレストハウスでお昼を食べて、少し様子を見ることにした。平日のせいかレストハウスはすいていて、我々の他には、やっぱりウエイティングをしている地元フライヤーのグルーブが数組みいただけだった。

トレイをもって自分で飲み物をとり、カウンターで料理を注文する。お昼御飯になりそうなメニュはそれはど多くない。私は、チロル風ひやし飴のドリンク、枝豆(いんげん豆かも)のポタージュスープ、ポイルドソーセージ、パンをたのんだ。見た目にはちょっと質素だが、この豆のスープがなんとも素朴ないい味でとても気に入ってしまった。どこのお店でもスープは本当においしくて、スープ好きの私はそれだけで御機嫌だ。



ゆっくり昼食をとっていると、どうやらランディング直前らしい鈴木さんの無線がはいる。「おーい、岸よ、カメラの紐が切れて(キャノピーから)回収できないからランディングで受けとめてくれ。俺、ターゲット近くに降ろすから」鈴木さんは、今回のツアーの目玉であるノイシュバンシュタイン城の写真を撮るために、キャノピーの方にカメラを紐でつるすようなセッティングをしてきたのだ。ランディングしたキャノピーと一緒にカメラを受けとめるなん難しそう、上手くキャッチできるといいけど。下のトラブルをよそに5人でのんびりとした昼食を終えるが、天気は好転する気配がなく、それどころか黒い雲までやってきそうだ。また下から無線がはいる。どうやら鈴木さんのカメラは、ランディングに着く前に止め具か何かがはずれて、上空から墜落してしまったらしい。あらら、ノイシュパンシュタインを明日に控えてカメラ壊しちゃうなんて可哀そう。下では牧草地に墜落したカメラがみつからず、岸さん達が探し回っている。「俺、ちょっと様子みてくるわ」と中台さんも下山。結局、30〜40分後に発見されたカメラは見事に地面にめりこんで昇天していたとか。合掌


ちょっと曇りっぽいノイシュティフト フルプメスの村からみえるノイシュティフト全景 この時はちゃんとキャノピーの端にセットされ稼働していた鈴木さんのカメラ



このあとは結局飛べず、少し早めに(といっても4時はすぎていた)ホテルに帰った。フルプメスにかえるとまだお店が開いていたので、鈴本さん、辻さん、村松さんとおみやげあさりにでかける。鈴木さんと私はスーパー(日本ではコンビニのSPARだ)が気にいり、グーラッシュスープの缶詰や真空パックのベーコンの塊(帰国後家で食べたがサラミっぽい味のべ一コンだった)、ミニボトルのフルーツ酒(バイオリンの形のボトルがおしゃれ)、クノールスープシリーズ、癌が治るという噂のケフイアヨーグルト、それとミネラルウォーター(この
村にはNonGasの水はなく全部炭酸入りだ)等々を山ほど買いこんだ。スーパーで買い物に夢中になっていると、すさまじい夕立がやってきた。豪快な雷と視界がさえぎられるくらいの雨。しばしみとれるが、20分くらいでばたっとおさまった。部屋に戻りケフィアヨーグルトを食べる。まずくはないが無糖で、いかにも菌がいきています!といった感じの生っぽさがある。お腹のなかで菌が繁殖したらどうしよう。


さて、この日の夕食はツアー中もっとも思いで深いものであった。ホテルのダイニングのいつもの席で、中台さんが係のお姉さんとオーダーについて話し「じゃ、全員それで」となった。まずは前菜。珍しく生魚のサラダ風の料理でそこそこおいしい。次に出てきたのが、我々を思わず無口にさせてしまった今日のメインだった。それは、スイトンのチーズ和えとでもいうべきものである。チロルにはクネーデルというまさしく、すいとんのような食品がある。一粒1〜1.5pの小麦の不定形な団子で、それをゆでた物をそのまま付け合せにしたり、スープの実にしたりする。出てきた料理は、そのスイトンをこってりのチーズソース(チーズフォンデュのソースに似ている)で和えたものであった。それが、大きなミート皿に(直径30pくらいか)てんこ盛りになっている。「これって、なに?」一口食べてみる。チーズの匂いが強烈!!だが味はまあまあ。でも、想像してしほしい、大量のフォンデュのソースがなかば固まったものを。とても大量に食べられるものではない。

食べても食べてもいっこうに減る気配がない。辻さんは「これがメインやなンて、おれ納得いけへんわ」とくり返し呟く。私は少しでも味にメリハリをつけようと塩・胡椒を振ったりするが、1/3で限界に達した。この皿をコンプリートしたのは、2人位だっただろう。その内の一人はもちろん鈴木さんだ。しかし、いつも必ず他人の皿まで面倒みる彼も「さすがにだめ」と辞退。お姉さんがお皿を下げにきて、あまりの残量に「何か問題があったか?」と怪訝そうに尋ねた。私たちは不慣れな英語で「味はOKだが、日本人には量が多すぎる、残してしまって申し訳ない」と弁解しきり。オーストリア料理の中で一冊インパクトのある料理だった。

胃がもたれて苦しい夜だった。明日は体重計にのるのは止めよう、と思った。
本日の出費:お土産熊のの絵本(4冊)1600円地図(2冊)2800円、ポストカード(2枚)で40円、体重計20円、ノイシュティフトリフト1日券2000円、お昼850円、スーパーで食料品の買い物(シャンパン、缶のスープ他〕約4500円、計11,910円






6月30日(木)  観光に終わった失意のノイシュバンシュタイン城




今日は本ツアーの目玉、ノイシュバンシュタイン城エリアのフライトだ。ノイシュバンシュタイン城はいわずとしれたドイツ観光の超有名スポットだ。ずっと以前からフライト抜きでもノイシュバンシュタイン城に憧れていた私は、朝からうかれっぱなしである。映画少女だった私は、ビスコンティの密かなファンなのだ、ルードウィッヒのような頽廃的な趣味人も大好きだ。

ノイシュバンシュタイン城は、車で2時開くらいのところにある。エリアはお城から5キロくらい離れたところで、ドイツ人のフライヤーで賑わっているという。城までの道程は、整備された道ではあるが山越え谷越えで、眺めが楽しい。一時間程走ったところで、名前はわからないが、ほとんど垂直のすごい岩山の横を通った。ところどころ雲をまとい、圧倒的な景観だ。ムーミン谷のはずれにあるおさびし山みたいだ。石松さんにそういうと、「あの村がムーミン村だよ」という。ちょうどおさびし山を回り込んだところが谷になっていて小さな村があるのだ。


ノイシュバンシュタイン城に着くと、青空は見えているが、ぱらぱらお天気雨がふる。飛べるかなとテイクオフ近辺を見上けるが、山頂はガスがかかりよく見えない。しばらくすると、どこからテイクオフしたのか、何機かのパラが出てきた。ランディングアプローチを確認しようとみんなでみていた。条件はあまりよくもないが、飛ぶには問題なさそうだ。イーデルの中級機が一機ほとんどぶっとびでランディング上空にきた。ランディングは平坦な牧草地で道路側に電線があるが、広いし風はアゲンストがほどほどでまず問題ないだろうと思っていた。ところが、ランディングの真上で高度処理あと10-15mのところでなぜかいきなりストールに入り落ちてしまったのである。「今のはちょっとやばいよな」「あれはいっちゃたよね」などといいながら様子を伺う。間もなく救急車がきて、彼は運ばれていった。その後すぐパトカーもきて警察が事情聴取を行ったようだ。あんな条件でなぜ失速したのか、私にはよく分からなかったが、どんな条件でも油断は禁物だ。

LDから見えるノイシュバンシュタイン かなり小高い場所にあります。歩くのちょっと大変です


空は相変わらず青いが、雨は降ったりやんだりをくり返しあまりよくならない。我々はお昼を取りながら待つことにした。山頂にいくゴンドラ駅にあるカフェで、隣はパラショップになっている。ここはドイツらしくジャガイモだということで、ポテトパンケーキのアップルソース添えやらドイツソーセージと野菜の煮込み(具だくさんのスープ)を食べる。昼食がすんでもまだ雨はあがらない。日ざしは結構強く、待てばなんとかなるだろうとおもわれたので、ノイシュバンシュタイン城を見学にいくことにした。天は私に味方したようだ。私は、今日ばかりはフライトよりも城観光を優先したかったのだ。(他のみんなは違ったようだが)ノイシュバンシュタイン城は小山の上にあり、観光客は山の下に車をおき、歩くか観光馬車にのるかで上にいくようになっている。ここはいかにもの観光地で、駐車場は混んでいて料金は高い。案内もドイツ語以外に、英語、フランス語、中国語、そして時々日本語も見かけた。観光客相手のカフェや土産物屋、アイスクリームの屋台等がたくさんあり、平日でも賑わっている。日本人も割といる。お天気雨に降られながら20分ほどかけて上にたどりつく。入場料500円程を払って、城の中庭にを通り、塔の螺旋階段から入る。中は思ったより狭く、観光客でいっぱいだ。螺旋階段の途中で、列がとまって前へいけなくなる。それほど混雑しているのだ。塔をのぼりきったところが、場内の見学ツアーの待機所になっている。城の中はフリーで見て回るのでなく、60人づつくらいの集団をガイドが説明しながら連れ歩くという仕組みになっているらしい。ツアー所要時間は30分ほどでこの待ち時間を入れて一時間はゆうにかかるだろう。幸か不幸か、待っている間になんとなく天気はよくなりつつあるようだ。私以外の根っからフライヤーのみんなは城見学より飛びたくて仕方がないといった感じで恨めしそうに外を見る。ようやくツアーが始まり場内を歩き出す。


ノイシュバンシュタイン城はさすがに趣味で作ったような城だけに、悪くいえば悪趣味なくらい装飾過剰だ。蛇口、ドアの取っ手などの細部にいたるまで、その趣味性が発揮され、注意してみるとシンボルの白鳥の意匠があちこちに隠されている。中は、写真等でみるよりもずっとと狭くこじんまりとしている。ルードウィッヒの寝室なども狭くて暗く、石松さんにいわせると「こんなとこ、怖くて寝られないよね」という代物だ。見事なのはオペラに使ったであろうステージつきの広間とローエングリンやトリスタンなどの壁画で、ルードウイッヒがいかにワーグナーのオペラ世界に浸って生きていたかがよくわかる。人口の洞窟もなかなか凝ったつくりで、私もワーグナーをBGMに遊んでみたくなった。わずか100年前の君主というのはなんと贅沢な遊びをしていたのだろうと思う。こういう莫大な浪費から芸術を生み出すシステムを20世紀が失ってしまったことは残念だ。一人の人間の妄執をこれほど見事に大規模に後世に残せることは現代では難しいだろう。

城からでると、雨はすっかりやんでいて天気は上々。でもなんだか風が強そう、しかも向きが・・・。
やっと城から解放されたみんなは急いでエリアにもどる。ところが、悪い予感はあたるもの。なんとフォローの風が吹いているのだ。駐車場にいたハングフライやー達に様子を聞くと、山頂は10mのサイドフォローでとても無理とのこと。せっかくきたのだからと、グライダーは担がずにテイクオフ見学に向かう。なんとも諦め切れない様子の鈴木さんは一人グライダーをもっていった。やはリスカイジャンキーである。山頂は10mは言いすぎだが、やはり飛べるという感じではない。ここのテイクオフは大きめのハングのランチャーのみでパラもここからでるらしい。ランチャー下は、もちろん木などなく2-300m下まで何もない断崖。スタチンしたら命ないよ、これ。飛べなくてよかったかも、と私は思う。
あーあ、飛びたかったなぁ・・・ 飛べないのでランチャーで遊ぶ。落ちたら冗談じゃすまないんですけど・・・・


飛べなかった疲れのため(?)か、帰りの車の中では寝てしまっておさびし山が見られなかった。飛べた日より飛べなかった日の方が疲れるのはなぜなんでしょう?

ホテルに帰り、シャワーもそこそこに大急ぎでダイニングヘ。今日は、バイキングとなっていて、飛べなかった鬱憤ばらしとばかりに気合をいれて、料理を取りにいく。「みんな、頼むから料理はサラダから始めてくれよな」と中台さんが言う。マナー無視の我々に彼は気を揉んでいるようだ。そういえば初日にはスープは音をたてずになんてこともいってたっけ。バイキング台にははサラダから始まり、パスタやら野菜やらが美味しそうに並んでいる。メインはもちろんお肉。セプンイレプンのおでん鍋に似た四角い缶の中に、スープで煮た牛肉2種類、ポーク、ラム等の塊が入っていて、その中で自分の好きなお肉を好きな量だけ切ってもらい、ソースをかけて出来上がりだ。シェフにこのくらい切ってと指で示したが、伝わらなかったのか倍以上の厚さに切ってくれた。私の生涯でこんなに毎日お肉を摂取した日々はこれまでなかった。それにしても、毎日こんなものを食べているのにオーストリアの人はあんまり太っていないのはどういうわけなんだろう。繰り返されるお肉とパンの食生活に、少々疲れてきたのか、辻さんはサラダに胡麻味噌ドレッシングが欲しいというし、菊池さんはそろそろお米が恋しいといっていた。まったく平気な顔をしていたのは中台さんと鈴木さんの二人だった。チロル滞在も、残すところあと3日。フライトできるのは2日だけ。日本食は恋しいが正直言って帰りたくない。部屋に戻りテレビををつけるとニュースでやけに日本の政局らしき報道が流れている(ドイツ語なのでもちろん内容は不明)。(後から聞いたら村山政権発足のニュース)日本で革命でも起こってこっちに亡命でもさせてくれないかなと夢見つつ寝る。


本日の出費 : 昼食(ソーセージ入スープとパンとドリンク800円、ノイシュバンシュタイン城入場料500円コーラ200円、絵はがき(5枚)350円、ケーブルカー往往復、1600円、山頂トイレ使用料50円、計3500円  ドイツマルクなので実は本当はいくらなのかよく分からない・・・

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