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 7月1日(金〕アッヘンゼのマヌーバーとインスブルックのチャイニーズレストラン
 



今日は、なんとマヌーバーをしにアッヘンゼに行く日だ。マヌーバー!?このお遊び極楽フライトツアーで、そんなダックスみたいな事やるの?とも思うが、日本では滅多にできないことだからやっぱり真似ごとくらいはやってみたい。

興味と不安と期待とを背負って、フルプメスから1時間ちょっとでアッヘンゼに着く。このエリアは、マヌーバー専用みたいなところで、我々がついた時には既に湖上で派手なマヌーバーが行われていた。天気は上々。風は少し強いがマア大丈夫でしょう。今日は、プロデザイン社のホフパー氏とウルフ氏も同行してくれた。現地でのボートの手配やライフジャケットの用意など、みんなやってくれたようだ。深く感謝。ランディングとエリアの説明を聞く。ランディングは湖のヨットハーバーのすぐ脇で、いかにもリゾ一ト地っぽい雰囲気を楽しめそう。平坦な草地で広さは十分、今日のマヌ一バーは、基本的にはレスキューを投げず、ちゃんと回復させてここへ戻ってくるのだ。湖に降りたらたとえ本人は無事でも後が大変だもんね。そんなわけで、バリオも無線も別に防水なんかしないでいつもの装備プラスまさかの為のライフジャケッツトで山に上がる。


テイクオフヘは、ケーブルカーで上がれるようになっている。このツアの中で一番歩いたのがこのアッヘンゼで、ホフパー氏の話によると水平方向に歩いて10分とのことなので安心していたのに、10分たっても15分たっても着かない。「ねえ、まだ先なの?」朝霧のフライヤーは軟弱なのだ。足尾の歩きが限界だ。20分弱でようやくたどり着いた時にはけっこうへろへろになっていた。須坂育ちのみんなは割と平気そうでちょっと悔しい。それにしてもホフバー氏のいう10分は嘘だよなあ、まったく外人はアバウトだ。

テイクオフは石ころの多いまばらな草地の急斜面で、これまでのエリアと比べるとちょっと見劣りがする。広さは一度に7〜8機出られるくらいある。ちょっと急すぎる気がしないでもないが、まあ悪くないテイクオフだ。このときすでに地元のフライヤーが10人くらいいて、うち3機がKENDOであった。ちょうど、KENDOがテイクオフしようとするところだったので、注目していたら、見事にスタチンしてくれた。再セットに時間がかかりそうだったので、こちらも彼らの少し下の方で機体を広げはじめた。条件がよさそうなので、いつもは人より後にでたがる私も、早めに準備。中台さんをマークし彼の後を追う作戦。上の方では、またまたKENDOがスタチン。風の入りが悪いのかな?と少し警戒するが、そんな風にも見えない。

中台さんがテイクオフし瞬く間に上げていくので、すかさず私もテイクオフ。この時は自分でも不思議なくらい調子よく上がって、気分は最高。アッヘンゼの湖は周囲の岸が白い砂で、少し緑がかった深く青い水の色とのコントラストが美しい。波がさざめいてきらきら光る。風の向きも分かって都合がいい。調子にのって、どんどん回す。風は確かに強めだが荒れている風でもない。まあ、気が抜けないといった程度だ。中台さんや菊池さんを下に見てちょっぴり優越感にひたる。やっぱり、人の上を飛べると楽しくなる。そこそこ上げた所で、何だか風向きがさっきとちがうような気がしてきた。「田村さん、上の雲 注意してね、まだ大丈夫だとおもうけど。風も、逆だからね。」と中台さんから無線が入る。それじゃ、そろそろ湖上に向かいますか。ヨーロッパでの気象の変化は、どれくらいでやばいことになるか、私にはまったく検討もつかない。だから少しでも不安があったら降ろすことにしていたのだ。一時期にくらべ大人になったものだと目分では思う。

アクセルを踏みこんで湖にむかうが、高度はちっとも落ちない。湖の真上で対地高度で1000近くあった。マヌーバーにチャレンジしょうと思うが、湖の上なのにサーマルがあり、グライダーが今一つ落ちつかず、かえって上がってしまったりする。高度がこれだけあると大きな湖も水溜まりみたいにみえて、本当に水の真上にいるかどうか心配だ。風が強いので、へ夕に回すとアッというまに風下側の岸の上まで流されてしまうように思えて、なかなかマヌーバーを始めるきっかけがつかめない。高度は後700くらい。ローリング(まがい)をやって、もう一度さっきの位置にもどり、スパイラル。右のブレイクを徐々に深くしていき体重をいれる。バリオをみて一5、一5、一7となったところで怖くなりやめる。自分でもちょっと根性ないかなと反省。高さはまだたっぷり。

次にハーフストールに挑戦!機体を正対させてブレイクをゆっくり引いて行く。こんなに引いてもまだ大丈夫?という意外なところまで失速しない。風切音が止まって静かになり、機体が静止。この後起こることは怖いからやめとこと完全失速に入る寸前に元に戻す。あと200ほどは遊ばずに、ゆっくり湖上のフライトを楽しもうと思ったのが正解だった。風は下に行くほど強くなり、風上のランディングまでなかなかたどり着かないのだ。湖上で強いアゲンストが勝手に機体をずぶらせてくれて、ランディング真上で数回振っただけですんなり降りた。フライトタイムは50分程度であったが、最高に楽しいフライトだった。

ライジャケつけて、いざマヌーバー? あんまり高度がありすぎてリアリティーがないゾ! アゲンストに向かって帰ってきます。

機体をたたんでいると石松さんが湖の上空に飛んできた。今からやるぞ、とみていたら派手にスパイラルを切りはじめた。さすがに自分で「私スパイラル好きなんです」と言うだけのことはある。なかなか思いきりのいいスパイラルだ。(見習いたい)ところが、そろそろ通常滑空に戻さないとまずいんじゃない?というところまできてもまだ回し続けているのだ。「ガッツ、もうもどして!」中台さんから警告がでる。それでも、戻せないのか戻さないのか、機体は回り続ける。そのまま湖面に激突するまでやる気じゃないだろうな、と不安になるころようやく通常滑空に入った。しかし、高度はだいぶ低く、この風であの高度ではまずランディングには届かないだろう、と見ている誰もがそう思った。本人は一応機首をランディングに向けたが、無理と悟ったのか風下側の一番近い岸へと向きを変えた。あ〜あ、さようなら〜


次に清野お父さんが湖上から帰ってくる態勢にはいった。ところが、ランディングの位置を勘違いしたのか、石松さんにつられたのか、どうも目指す位置がちがっているようなのだ。「清野のさん、どこいくの?ランディングはこっちだよ-」清野さんが正しいランディング位置を把握したときにはすでに手遅れだった。清野さんはランディングと湖の間の湿地帯に消えていってしまった。「あそこ、底無し沼じゃない」「きっとアリゲーターがいるぞ」等とみんなで冗談をいっていると、今度は緊急ランした石松さんから無線「サッカーコートにランディングしました。グラウンドに(外から)鍵がかかって出られません。今近所の人が鍵をとりにいってくれてます。」とのこと。とりあえず無事でよかったが、いつになったら帰ってこられるのやら・・・


一時間ほどして全員そろったところで、山を見上げるともう飛んでいる機体はなかった。風はますます強さをまして、今日のフライトはこれでおしまいとなった。湖で足をつけたり、水をかけあったりして水遊びをしたあと、ランディングの道路向こうのカフェでお茶にする。どのエリアでもカフェはすぐ近くにあって平日でもちゃんと営業している。その代わり自動販売機はまったく存在しない。こっちへきて感じたのは道路でも広場でも空き地でも本当にゴミがまったくなく、どこへいっても清潔で気持ちがよいということだ。確かに、コンビニや自動販売機がなければゴミは出にくい。多少不便でもカフェがこれだけあればこと足りる。日ごろ、コンビニ無しでは生きていけないと思っていたが、少し考えさせられた。リゾートのカフェを後にして、インスブルックの町に帰った。ブロデザイン社の二人はいったん仕事へもどっていった。(よく考えたら今日は平日で彼らには仕事があるはずなのだ。)


インスブルックに着いたのはまだ夕方で、ここで少し時間をつぶして、夜になったら再びプロデザイン社の人達と合流、会食となる手はずだ。インスプルックの植物園近くに車を停め、いったん解散。一度来ているので、みんなそれぞれおみやげを買いにいったり、カフェにいったり適当に時間をつぶしていた。私は村松さんとやっぱりスーパーめぐりにいき、地元の市場のような所へはいった。既に多くの店が店じまいをはじめていてあまり収穫はなかったが、市場の入口わきの隅のドリンクスタンドらしきものが賑わっていたので、ちょっと寄ってみた。市場で働いているらしいおじさん達がビールか何かを飲んでいて、どうやら客はみな常連っぽい。当然だが、妙な二人連れの東洋人はめだってしまって恥ずかしい。観光客が来るところではないようだ。スタンドのおばちゃんは関西弁ぽい雰囲気の騒がしいおばちゃんで、なにやらドイツ語でしゃべりまくり、やたらとダンケを連発していた。もちろん私にはその単語以外はまったく不明だった。


時間になって集合し、市街の中心から少しはずれたところにあるチャイニーズレストランに向かう。中台さんによればチャイニーズレストランはオーストリアではどんな田舎にいっても一件はあるそうだ。このチャイニーズレストランがある交差点の町並みは、古くからの建物や街灯がそのままそっくり残っていて、路面も石畳で趣があり実に素敵だ。中へ入ると妙に東洋趣味を強調したインテリアで少しばかり落ち着かないが、なかなか立派な店だ。

席についてメニュを広げる。だいたいがお馴染の中国料理なのだが、中にはYAKITORIなんてものもあり御愛敬だ。2人用セットメニュ、3人用セットメニュをどうやって割り振るかでさんざんもめてようやくオーダーが決まった頃、プロデザイン社の二人がそれぞれパートナー同伴で登場。ホフバー氏の息子さんも一緒だ。ホフバー氏とウルフ氏はメニュをみながら「今日は金曜だからお肉はだめ」という。こちらの宗教上の理由で金曜日は肉食を避けるらしい。ウルフ氏に拙い英語でなぜなのかを尋ねてみると、彼はしばらく考えて「オーストリアでは毎日毎日、牛・豚・鳥の繰り返しだ。だから週に一回身体の為にそういう習慣があるのだろう。」という。「それは健康によい事だ」と私がいうと「そう、とってもいいことだと思う。もっとも今の若い人達はこういう伝統的な習慣を守ってはいないが」とまだ若そうなのに案外おじさんくさい事をいう。私としてはそれがなぜ金曜なのかを聞きたかったのだが、宗教上の話題になると英語がついていけなくなるのでやめておいた。


飲み物がでそろったところで、みんなで乾杯。(日本語で『カンパーイ』)「こっちでで乾杯は何て言うの?」と聞くと中台さんが「トーストって発音してごらん」と言う。「トースト?パン焼いたトースト?」「そうそう、とにかくそういってみな」半信半疑でグラスを持ち上げ「トースト」と言うとウルフ氏がにっこり笑って「トースト!(本当はポーストかもしれない)と返してくれるのでホットしてみんなで笑う。料理がきて、恒例の皿回しが始まる。隣に座った鈴木さんとその向かいの村松さんは海老チリだの、チンジャオだの、ぺキンダックもどきだのが8種類くらいついてくる豪華コースを注文したが、鈴木さんはそれでもなお、他の人の皿にまで意欲をもやす。「頼むから外人さんの皿まで一緒に回さないでくれよ」と中台さんは心配する。私は中台さんおすすめの挽き肉と揚げ春雨のレタス包み(名前は忘れた)を食べた。あっきり味で確かに美味しい。デザートはしっかりアンニン豆腐で締めくくり、満足満足。最初は英語に緊張していたが、後半はウルフ氏と鈴木さんとでフライトの話しも盛り上がり、(フライトの話しだったら私でもだいたい解るのだ)本当に楽しい会食となった。ウルフ氏は、どの山のフライトコースの話を聞いても、「ここで上げて、こっちへ走る、またあげてまた走る。」といとも簡単そうに言う。「風はどう?」と問うと「ペリーイージー」と「ノープロブレム」の連発だ。あまり我々の参考にはしないようにしよう。


上機嫌でホテルに帰るともう夜中だ。あらかじめ鍵をかりておいたので初日のように締め出されることもなく部屋に入る。この夢のようなフライト生活もあと僅か。どうか、天候と安全に恵まれますように。


《本日の出費》アッヘンゼゴンドラ代2100円、カフェでお茶コーラ(大)&アイスコーヒー800円、ミネラルウオーター100円、スーパーの片隅でお茶アップルザフト200円、計3200円








7月2日(土)やっと飛べたスチューバイ&ノイシュティフトのラストフライト




フライト最後の日がきた。「どうかよい天気でありますように」と祈るような気持ちでカーテンをあける。祈りが通じたのか、空は青空、風は穏やかで、雲はなし。まさしくフライト日和。チロルの神様ありがとう!


ダイニングへ下りていつもの朝食。早く飛びに行きたいので早めに済ます。スチューバイはこの村にあるシュリッ2000というスキー場のエリアで、実はこのホテルから歩いて数百メートルの所がランディングになっている。テイクオフへ上がるリフト乗り場は村の外れで、車で数分と少し離れているが、我々のホテルはこのエリアの中にあるといってもいい。それなのに、どうして最終日までフライトしなかったのかというと、実はリフトが調整中とかで、今日まで動かなかったのだ。ツアーのメインエリアとしてスチューバイを選びそこを宿泊先としたのにこれは大きな誤算だった。(もっとも、あちこちエリアだらけだったので別に問題にはならなかったが)


テイクオフにはリフトとゴンドラを乗りついで上がる。高度差1200。下のリフト乗り場に着くと、この夏のオープン初日とあってか、トレッキングの人達も結構いる。ゴンドラにのってフルプメスの村を見下ろすが高すぎて、目分のホテルが見つけられない。登るにつれてだんだん木がなくなり岩肌になってくる。本当に高い。山が垂直に近いため、いきなり対地高度がとれそうだ。ゴンドラをおりると、後ろにはものすごい谷をはさんで、さらに高く険しいピークがそびえる。どのくらい上げれば、後ろの山につけるんだろう。テイクオフヘは歩いて2分。ゴンドラ駅のすぐ裏だ。適当な斜度の草地で、広さはそこそこ。横に2〜3機、縦に2〜3機くらいは広げられるだろう。右前方にはノイシュティフトがみえ、左下にはフルプメスの村、そして美しい緑の絨毯が敷かれた谷。ランディングは、はるか下だが距離は近いし目でみえる。うんっ!いいテイクオフだ。俄然、飛ぶ気に拍車がかかる。


ハーネスをつけ、プレイクコードを構えて、空を見上ける。吹き流し、雲、頭上に飛んでいる機体、そしてテイクオフの仲間、全てがゴーサインを出している。「いきまーす!」テイクオフするなり、グンとリフトを感じる。回すか?と思うが、山に近すぎる。思っていたほど穏やかではないようなので、あまり山際で回してつぶれでもしたら、と警戒する。リフトとシンクが交互に来て、今ひとつサーマルをとらえきれない。他のみんなも次々テイクオフしているが、同じような状況らしい。ランディングで見ていた中台さんから無線で「なんかみんな空中で(無線が出ず)静かでいいね、手が放せないみたいで」とちゃちゃが入る。確かにちょっと手を放して無線でおしゃべりという状況ではない。石松さんがかなり後方でサーマルにのったのか、急激に上がっていく。下につきたいが、向かえば向かうほどシンクにはまり、悪くなる一方。テイクオフ前に戻りそこそこ粘るが、どうもあそこまで上げられる感じがしない。

諦めて、ランディングまでのフライトを楽しむことにする。はるか下の山の木々に機体の影が写る。フルプメスの村の上空までいって旋回する。ちょっとだけ村サーマルがあるので、ぷかぷか浮かせながら、村の様子をながめて楽しむ。ランディングは山のすぐ下で、広くて平らな草地だ。が、山側に電線があるらしいのが少し気になる。こちらの電線は細いのか、日本の電線よりも見えにくいのだ。かなり高度を落として、電線を確認。ランディングアプローチには問題ないと判断。ランディングには、中台さんがいて「ターゲットを狙え」という。これだけ広いと確かに狙わないとランディングが散漫になってしまう。ターゲットを確認し、ランディング上でふるが、いつもの悪い癖で手前に照準があってしまう。5m程ショート。。マダマダ修行が足りないようだ。

ランディングにはハングがおりていて、ハングフライヤー達は、上半身裸でのんびりおしゃべりをしている。時間は12時。まだまだ飛べるぞ、とさっさと磯体をたたんだ。私は、2本目はコンパクトの31を貸してもらい試乗することにした。コンディションもそれなりだし、2本目なのでまあ大丈夫でしょう。「立ち上げの練習しなくていい?」と聞いたが、みんな口をそろえて「いい、いい」というので、いきなり飛んじゃうことにした。


再び山頂に登ると、あのブッヒャーのところで開発中のブルーエンジェルが飛んでいる。サーマルはあるにはあるがテイクオフプラス400がせいぜいかというところ。なのに、後ろへと続く尾根へつっこむつっこむ。パイロットはブッヒャー本人かな?急ぐこともないように思われたので山頂のレストランで昼食。屋外のカウンターテーブルにみんなでずらっと並んで座り、ブルーエンジェルの飛びを眺めながら食べる。スパゲテイミートソースやフランクフルト(大きい!)、フライドポテトや牛のシチュー(日本でいうビーフシチューとはだいぶ違う、牛のチロル風角煮といった感じだ)なんかをほおばりながら、こんな贅沢があっていいのかと思う。ほんと、来てよかった。
愛機チャレコンでスチューバイを飛びます! スチューバイLD、急いでたたんで・・・ ノイシュティフトでコンパクトの試乗


2本目も1本目の時と、だいたい同じような条件にみえた。私は、コンパクトを広げ念入りにラインチェック。操作上の特性等はよく知らないが、他の人の話を総合すると、それほど神経質になる必要はなさそうだ。ブローを待ってテイクオフするが、あまりに簡単に出てしまったので、立ち上げ特性など感じるひまもない。テイクオフ直後も非常に安定している。ブレイクコードが重い点と旋回性がチャレコンとはだいぶ違うようだが、どこへいっても上昇風があり、サーマルが大きいので外すという感じはしない。(ただしこれはヨーロッパでの話、帰国後、足尾でのってみたらチャレコンに比べ、サーマルは捕らえにくい感じがした)1本目に感じた潰れに対する不安感が少しもないし、非常に楽しく飛べる。+3〜4のサーマルがぽこぽこあるがまったく平気だ。操作は雑にやっても問題ないし、とにかく精神的に楽な機体だ。いいねこれ、買っちゃおうかな。いまならまだチャレコン売りやすいし、これだけ飛べば上等だよね。コンパクトはすいすい上がり、あっという間にトップアウトする。うん!操作に対する違和感もないし、強気で乗れるな。私は思い立ったら止まらない性格なのだ。よし、帰ってチャレコンが売れたら買い替えよう。サンデーフライヤーは、楽しく飛んだ者勝ちさ。などとルンルンしながら回していると、中台さんがその気持ちをみすかしたように「田村さん、どうコンパクト?調子いいね、水を得た魚のようだな」というので無線を握りしめ(この条件で手を放しても楽勝だ)「気に入りました!帰ったら買います」と応えてしまう。オイオイ、先立つものがないゾ。ランディングしてもハイな気持ちが止まらない。ホント、いい機体だなあ。パラってまたまだ進化しているんだ。2本目の方が荒れてたな、と他の人が言っていたが、私は逆に2本目は荒れてる感じがしなかったもんね。


風がだんだん強くなってきて全員ランディング。みんな2本楽しく飛べたので、悔いはないだろう、と思ってすっかりホテルへ帰る気でいたら鈴木さんが、「この時間ならまだ向かいのノイシュティフト、飛べるよね、あそこはリフトも4時半まで動くし、向こうの風向きなら大丈夫みたいだし」という。えっ?まだ飛ぶ気?さすがはスカイジャンキーのドン、飛びに対するそのこだわりはただ者ではない。そうとなれば、急いで移動だ。このとき村松さんは「私はインスブルックの街に行きたいんで」と別行動を宣言。とっとと一人でどこかへ行ってしまった。何をしに街へ行ったのかは誰も知らない。なんでもいかがわしい物を買いに行ったとか行かなかったとか。菊池さんも「私ももうフライトはいいです」と、ホテルへ帰っていった。一人でホテルのプールでのんびりするんだそうだ。このあたりが大人の余裕を感じさせる。がつがつ飛びたい貧乏性フライヤーとはやっぱり違う。


二人と分かれてノイシュティフトに着くと、確かに飛べそうな条件だ。急いでリフトにのりテイクオフヘ(もっともこのリフトは結構遅く20分はかかる)風はややサイド気味で少々強いがリッジで飛べる条件だ。とにかく飛べるうちに飛ばないと後悔するなと思ったので、さっさと機体を広げちょっとラフに立ち上げる。サイドを考慮しないで広げたので、機体が大きく傾くが、え一いっ!この機体ならなんとか直るだろうと走り続けて強引にテイクオフに成功。危うく牛にぶつかりそうになる不恰好なテイクオフになったが、逆にこれだけ傾いても修正できるなんて、と感激してしまう。しばらくテイクオフ前で飛んでいるとリフトの運転が止まった。4時半だ。テイクオフできてよかった。万が一テイクオフできずに4時半になったら、歩いて下りるはめになる。お気楽のんびりフライトをきめこみ、夕暮れの少し霞んだスチューバィタールの景色を眺める。灰色がかった空に牧草地の緑がしっとりと綺麗にみえる。こういう感じの緑色って日本ではみない。昔からヨーロッパ映画にでてくる緑はなんか違うなあと思っていたが、こうして見ると実際に違うのがよくわかる。途中、菊池さんから無線がはいる。彼はプールサイドでビールを飲みながらノィシュティフトで飛んでいる我々をみているらしい。風がやや強さを増してきたので、スチューバイの風景に名残りを残しつつも、早めにランディングへ向かう。試乗なんだからそのへんは慎重にしなくっちゃ。ランディング手前の斜面に張り着くとまだ十分高度がある。

中台さんの指示でコンパクトのローリングにトライ。バンクを確認したら思いきって引く。切れこむような感じはないが、慣れればもう少しイメージ通りの旋回が可能だろう。最後のランディングアプローチに入る。ばっちり決めなくちゃ、と慎重にランディング。キャノピーを落とさないように少し前へ走る。キャノピーを安定させてクルットと後ろを向いてまっすぐ落とす。なかなか綺麗に決まった!と一人悦に入る。キャノピーをかついで、上を見上げるとみんなまだ飛び納める気にならないのか、がんばっている。草の上に腰を下ろして、あーっ!終わったァーと一人しみじみする。長いツアーが終わるときは名残り惜しさと、何ともいえない安堵感があるが、今回はそれにすこし寂しさが加わる。国内エリアならまたすぐにでも来れるが、ここへはもう2度と来られないかもしれないからだ。でも、絶対また来よう!今度はスチューバイの裏山に取りついて一周してやろう、と密かに誓う。


その日の夜は、ホテルのダイニングのいつもの席で夕食となった。街に行っていた村松さんも無事に帰ってきていたが、何をしていたかは定かではない。夕食のメニュは、シャンピニオンのシュニュッツェルか鴨のローストのどちらの選択式で、どちらも食べたい我々は、両方を5人分づつ頼み、やはり皿を回す。こちらの夕食にしては、初めて適量(少ないと感じた人もいたかも)で、胃もたれに悩むまされずに済みそうだ。シャンピニオンの方は一見ただのフライだが、使っているパン粉が違うのか、油(たぶんバターが人っているんたろう)が違うのか、香りがよく見た目より美味しい。帰ったら朝霧で無人販売しているマッシュルームで作ってみよう。一通り食べ終わって、ピールタイムとなり、なんとはなしにツァーの講評会(石松さんは反省会だといっていた)となる。ここでは、清野親子の会話が笑える。結構、ハラハラものの飛びをするお父さんに、スタッフのてる君は「まったく、お父さんはもう少し考えて飛んでよね」と手厳しいが、前科2犯のお父さんは「メイピー、大丈夫と思ってた」とまったく気にしない様子。あのフライトがどうだった、このエリアはどうだったと話は尽きない。思えば、10人かすり傷ひとつ無くよく無事に今日が迎えられたものだ、(中台さんは胃を悪くしたり、10円はげを作ったりしたかもしれないが)ピールを何度もお代りしながら、夜が更けるまでパラ談義は続いた。


本日の出費:スチューバイリフト代2000円、スチューバイ山頂で昼食(オレンジザフト、牛のチロル風角煮)850円。ノイシュティフトリフト1回700円、ノイシュティフトリフト下のカフェでお茶(オレンジザフト)350円、計3900円



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